今月のお言葉 

  5 月のお言葉

ちりはてゝ 花のかげなき このもとに
たつことやすき なつごろもかな

                                                                                                                          前大僧正慈円      

 意味:花がすっかり散って、もはやその陰もないこの木の下には、気軽に立つことができる
――夏衣の身には、ちょうどよいことだなあ。

    境内の桜も、今は八重桜を残すのみとなりました。桜吹雪の季節が過ぎると、続いてクスノキやマサキが、まるで古い上着を脱ぎ棄てるかのように、一斉に葉を落とし始めます。

常緑樹と呼ばれるこれらの木々も、パラパラパラと頭上高くから葉を降らせながら、新しい葉を生み出していく——まるで自然の中で静かに衣更えをしているようです。

人もまた、季節とともに衣を替えることで、心新たに日々を迎える準備をいたします。
「更衣」とは、単に衣服を替えるだけではなく、古いものを手放し、新たな自分へと向かうための静かな儀式とも言えるでしょう。

弘法大師・空海さまが高野山奥之院の御廟にご入定されたのは、今からおよそ1200年前のこと。時を経て、延喜21年(921年)、第60代醍醐天皇は、大師さまに「弘法大師」の法号を下賜されました。

その大いなる法名を奏上するために高野山を訪れたのが、東寺の観賢僧正でした。観賢僧正は、天皇から賜った檜皮(ひわだ)色の新しい僧衣を携え、奥之院にて静かに大師さまの御衣をお召し替えしたと伝えられています。

この御衣替えの行は、今もなお高野山で大切に受け継がれています。毎年3月21日、「正御影供」において弘法大師へ新しい御衣を奉献することから、これを「御衣替え」とも呼んでおります。

常緑樹が自然に古い葉を落とすように、私たちも時には、心にまとった「古い衣」をそっと脱ぎ、新しい光の中へと身を委ねていくことが大切なのかもしれません。

季節のうつろいとともに、私たちの心もまた日々新たに整えられてゆく——
そのことを、お大師さまの御前で静かに感じさせていただきましょう。                       合掌

)